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謙譲語Ⅰ(伺う・申し上げる」型)

「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を立てて述べるもの。
<該当語例>伺う,申し上げる,お目に掛かる,差し上げるお届けする,御案内する(立てるべき人物への)お手紙,御説明

【解説1:行為についての謙譲語Ⅰ】
「先生のところに伺いたいんですが……」と述べる場合「先生のところに行きたいんですが(先生のところを訪ねたいんですが)……」と同じ内容であるが「行く、訪ねる」の代わりに「伺う」を使うことで「先生」を立てる述べ方になる。このように「伺う」は<向かう先>に対する敬語として働く。この種の敬語は,一般に「謙譲語」と呼ばれてきたが,ここでは3の「謙譲語Ⅱ」と区別して,特に「謙譲語Ⅰ」と呼ぶこととする。
(注) 「伺う」は「行く(訪ねる」のほかに「聞く「尋ねる」の謙譲語Ⅰとしても使われる。

【解説2:<向かう先>について】
例えば「先生にお届けする「先生を御案内する」などの「先生」は<向かう先>であるが,このほか「先生の荷物を持つ「先生のために皿に料理を取る」という意味で「お持ちする「お取りする」と述べるような場合の「先生」についても,ここでいう<向かう先>である(例:あ,先生,そのかばん,私がお持ちします。」「先生,お料理,お取りしましょう。」)また「先生からお借りする」の場合は「先生」は,物の移動の向きについて見れば<向かう先>ではなく,むしろ「出どころ」であるが,「借りる」側からは,「先生」が<向かう先>だと見ることができる「先生からいただく「先生に指導していただく」の場合の「先生」も「物」や「指導する」という行為について見れば「出どころ」や「行為者」ではあるが「もらう「指導を受ける」という側から見れば,その<向かう先>である。その意味で,これらも謙譲語Ⅰであるということになる。上で述べた<向かう先>とは,このような意味である。

【解説3:名詞の謙譲語Ⅰ】
「先生へのお手紙「先生への御説明」のように,名詞についても,<向かう先>を立てる謙譲語Ⅰがある。(注) ただし「先生からのお手紙「先生からの御説明」の場合は,<行為者>を立てる尊敬語である。このように,同じ形で,尊敬語としても謙譲語Ⅰとしても使われるものがある。

【解説4:立てる」ということ】
謙譲語Ⅰを使う心理的な動機としては「<向かう先>の人物を心から敬うとともに自分側をへりくだって述べる場合」,「その状況で<向かう先>の人物を尊重する述べ方を選ぶ場合」,「<向かう先>の人物に一定の距離を置いて述べようとする場合」など,様々な場合があるが,いずれにしても,謙譲語Ⅰを使う以上,<向かう先>の人物を言葉の上で高く位置付けて述べることになる。以上のような様々な場合を通じて「言葉の上で高く位置付けて述べる」という共通の特徴をとらえる表現として,ここでは「立てる」を用いることにする。
これは,先の尊敬語における「立てる」と同じ性質のものである。ただ,尊敬語と謙譲語Ⅰとでは,<行為者>などを立てるのか,<向かう先>を立てるのかという点で,違いがあるわけである。

【解説5:立てられる人物について】
「先生のところに伺いたいんですが……。」(あるいは「先生への御説明)などと」述べる場合には,次のような各場合がある。
①「先生」に対して,直接このように述べる場合

②「先生」の家族等に対して,このように述べる場合

③その他の人(例えば友人等)に対して,このように述べる場合

謙譲語Ⅰを使うことによって立てられる<向かう先>の人物(上記の例の「先生」) は,①の場合は「話や文章の相手」,②の場合は「相手の側の人物」に当たる(①②の場合をまとめて「相手側」と呼ぶ。また③の場合,立てられる<向かう先>の人物(=「先生)は「第三者」に当たる。以上のように,謙譲語Ⅰは「相手側又は第三者」を<向かう先>とする行為・ものごとなどについての敬語である。
なお,立てられる人物(上記の例なら「先生)が状況や文脈から明らかな場合には,それを言葉で表現せずに,ただ「伺いたいんですが……。」「御説明「お手紙」」などと述べる場合もある。

【解説6:行為者について】
謙譲語Ⅰの行為者については,次の①又は②のような使い方が一般的である。
①「先生のところに伺いたいんですが……」のように「自分」の行為について使う。

②「息子が先生のところに伺いまして……」のように「自分の側の人物」の行為について使う。このように,謙譲語Ⅰは,一般的には「自分側(①②の場合をまとめてこう呼んでおく)から「相手側又は第三者」に向かう行為について使う。
ただし,謙譲語Ⅰは,このほか,次のように使う場合もある。

③「田中君が先生のところに伺ったそうですね」のように「第三者」の行為について使う。

④「鈴木君は先生のところに伺ったことがありますか。( 「鈴木君」に対して,あるいは「鈴木君」の家族等に対して,こう述べる)のように「相手側」の行為について使う。

③④は,「自分側」からの行為ではない点は①②と異なるが,<向かう先>の「先生」を立てる働きを果たしている点は①②と同様である。また,③④では,行為者の「田中君「鈴木君」は,<向かう先>の「先生」に比べれば,この文脈では「立てなくても失礼に当たらない人物」ととらえられている(例えば,③④の文を述べている人と「田中君」や「鈴木君」が,共に「先生」の指導を受けた間柄である場合など。

このように,相手側や第三者の行為であっても,その行為の<向かう先>が「立てるべき人物」であって,かつ行為者が<向かう先>に比べれば「立てなくても失礼に当たらない人物」である,という条件を満たす場合に限っては,謙譲語Ⅰを使うことができる。
【補足:いただく】「」「いただく」は,上に述べたとおり,謙譲語Ⅰであるが,謙譲語Ⅰの基本的な働きに加えて,恩恵を受けるという意味も併せて表す。例えば「先生に指導していただく。」「先生に御指導いただく」は,それが有り難いことである,という表現の仕方。になる。

このページは、文化庁文化審議会の答申「敬語の指針(PDF)」を基に作成しています。

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